服部あさこ『「集団自決」訴訟における軍命否定証言の背景』(2017)

シノプシス

岩波書店らが被告となった「集団自決」訴訟において、原告側証人の一人宮平秀幸は、梅澤部隊長が自決を諫めるのを聞いたと証言した。この証言は他の証言との矛盾が多く、判決においては「虚偽」と断言されている。この証言によって、氏の身辺では人間関係の分断が生じた。秀幸氏のライフストーリーからは、沖縄の徹底した皇民化教育と、座間味島の置かれた軍民一体の生活によって、彼が座間味に駐留した日本軍人、中でもその頂点にいる梅澤部隊長に強い憧れを抱いていたことが見て取れる。その思いが、裁判において、部隊長の名誉を守る証言をさせたのである。皇民化教育と軍民一体の生活は、沖縄のみならず複数の戦地で生じた集団自決の共通の要因とされるものである。集団自決の責任の所在という点では、秀幸氏の認識もまた、他の証言者と同様のことを述べている。切り取られた数分についての、歴史の証言という点では「虚偽」とされる記憶の語りも、「なぜ」それが語られたかを、語り手のライフストーリー全体から見てみると、「集団自決」を経験した他の証言者と同様の認識を示していることがわかる。この知見は、ヤマトの人間の名誉回復のために利用された証言によって生じた分断を、認識の相同性からつなぎなおしていく手掛かりになるだろう。