歴史とは ~ シリーズ沖縄戦について ➀

 

歴史とは・・・

歴史とは何か

 

歴史 (history) とは、古代ギリシア語で、historeo (尋ねる、探求すること inquiry ) 、 (見る人、つまり賢者 wise man、英知 wisdom ) という意味の histor からきています*1

 

つまり、今や明日の問いの答えを求めるならば、私たちはそれを過去から学ぶことができる。古代ギリシアの賢者は、歴史にこそ人間の英知があるということを私たちに教えてくれているのですが、

 

日本では、大学に入学する少なからずの学生が、「歴史は嫌いだった」「歴史は苦手だった」、という言葉を口にするわけです。

 

さらに驚くべきは、「歴史の授業がなかった」「習ってない」と語る学生も少なくないのです。

 

いや、まさか、そんなわけないだろう、と思いたいのですが、実際に多くの学生が、そうなんです、と主張し、また、実際そういうことがおこってしまっています。

 

「歴史の授業がなかった」 !?

 

日本の歴史に割り当てられる時間はあまりにも少ない。

2006 年秋にいわゆる「世界史未履修」問題が発覚し、「世界史を学ばぬ高校生」「世界史を教えない高校」が生まれていることが大きな問題となった。

日本学術会議 史学委員会 高校歴史教育に関する分科会 「提言 再び高校歴史教育のあり方について」平成26年(2014年)6月13日 pdf

平成21年改訂(告示)→ 「世界史A」「世界史B」から1科目「地理A」「地理B」「日本史A」「日本史B」から1科目必履修

・「世界史A」…人類の諸課題を探究、「世界史B」…地理的条件や日本史との関連、歴史的思考力
・「日本史A」…主題学習の充実、「日本史B」…主題学習の充実、伝統文化、歴史的思考力を育成

文部科学省「高等学校学習指導要領解説 地理歴史編 pdf

 

つまり、世界史は高校生で学ぶとしても、日本史は地理との選択履修なので、地理を選ぶ学生も多く、日本史を学ぶ機会がない高校生が多発する、という現象が起きてしまうのでしょう。

 

また、英国などのテーマ別の探求と議論を含む歴史の授業とは違って、日本では、丸暗記で、しかも古代から始まり近現代まで到達しないため、履修したとしても、なかには戦国時代で歴史が終わったという笑い話のような笑うに笑えない学生の証言も・・・。

 

その一方で、太平洋戦争は侵略戦争ではなく日本の自衛戦争だったと語る学生も時々出没し、ほう、またその根拠は、と尋ねると、かつては、「予備校の先生がそう語っていた」「漫画本で読んだ」、という話であったのが、最近この10年ぐらいでは、高校の先生がそう教えていた、という驚愕すべきことを実際にニ~三度聞いたりします。

 

日本の戦争と慰安婦のことを語れば、「真偽の怪しい話を、さも慰安婦というのがあったかのように語るのはおかしい、真実はこうですよセンセイ」と漫画本や、某カルト右派教団が制作した youtube 動画を出してきて、歴史の研究に果敢なチャレンジを公然ともちかける若者もいるほどで、彼らのいかにも純粋無垢な眼差しをみると、逆にこちらもどうしてあげたらよいのやら、一瞬複雑な気持ちに落ち込んでしまいます。

 

沖縄戦に関する記述は、たったの一行 !?

 

まあ、日本の歴史教科書に少なくともあまり期待できる要素があるとはいえず…

78年が経った沖縄戦を伝えるために、沖縄県内の平和教育は試行錯誤が続いています。文科省検定済みの高校の歴史教科書の1冊を開くと、沖縄戦に関する記述は
本文中に1行と少し。『沖縄で激しい戦闘があった』とあるだけで、沖縄戦の実相に迫ることはできません。集団自決への日本軍の関与をめぐる記述削除の問題など“揺らぐ平和教育”の課題を見つめます。

『沖縄戦に関する教科書記述は1行と少し』時代の変化に揺らぐ“沖縄の平和教育”の課題 | TBS NEWS DIG (1ページ)

 

原因 <日本軍の関与> に言及せず、どうやって結果 <「集団自決」> を教えることができるのか。正しい情報がなければ、極めて危険なミスリードや偏見を招くだけ。

 

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/j/jazzminex/20230908/20230908101754.png

沖縄タイムス「沖縄戦の「集団自決」 日本軍の関与に触れず 教科書検定で小6社会の全3社」(2023年3月29日) - 歴史の記録

 

右傾化一直線の地方の教育委員会の実態。

 

クリティカル・シンキング以前に、沖縄の歴史を教える機会もない状態なら、ネットで吹き荒れるデマの嵐にどうやって免疫をつけるのか。

また県内の小中学校などを対象に行った別の調査では『沖縄の歴史』の学習指導時間が、年間指導計画にない学校が14%にのぼっています。

『沖縄戦に関する教科書記述は1行と少し』時代の変化に揺らぐ“沖縄の平和教育”の課題 | TBS NEWS DIG (2ページ)

 

ああ、沖縄の歴史を学ぶ時間がない?  これ、戦前に日本がやっていたことですよ。皇民化教育に時間をとられ、琉球歴史は追いやられた。

阿嘉島、十五歳の沖縄戦

中学では、希望して、琉球歴史が受けられたが、皇民化教育受けてる身だから、遠慮した。「沖縄歴史を、知りたければ、教科書を買ってもいいですよ」と、先生が進めるだけ。しかし、「我々は、日本人になるために学んでいるから、琉球歴史は学ぶ必要がない」と遠慮した。

阿嘉島からの証言 ~ 垣花武一さん - Battle of Okinawa

 

オーラル・ヒストリーの大切さ

 

 歴史を学ぶという事に対して、ネットはいうまでもなく、日本の歴史教科書や先生から学んだ、で、すべて学んだ気になるのは、もはや危険とまでいえます。また、歴史を短期間で学ぶ必要はないどころか、急いで学ぶことのリスクは多いものです。

 

歴史は、生きているあいだ、つまり一生のあいだ、死ぬまで、じっくりと時間をかけて学び知っていくべきものだ、

 

ということを「知る」ことが、最初の歴史の学びというものです。

 

また歴史は、教科書よりなにより

日々生きている生活の現場のなかから学ぶものでもある。

 

自分のおばあさんや、おじいさんはもちろんのこと、日々出会うおばあさんやおじいさんの語ってくれたこと、ひとつひとつが、いとしい宝物、一生の英知としての歴史の重みを与えてくれます。

 

今、戦争を知る世代の人びとがいなくなっていき、また生活の変化によって世代間の対話が激変、ネットと歴史修正主義の跋扈で、若者たちが閉じられた環境に置かれがちの時代であるからこそ、ひろく歴史に触れる機会を提供することは、この時代の課題となっています。

 

私自身、歴史を学ぶことの大切さに気が付いたのは、海外に行ってからかもしれません。学生時代、アメリカの田舎のバーでであう見ず知らずの退役軍人たちは、日本語が懐かしいと話しかけ、酒をおごってくれたりするのですが*2、彼らが語る沖縄戦は、また沖縄で学ぶ沖縄戦と同じく、また大切な歴史であることを知り、衝撃を受けました。そのことが、多様な歴史の学びの大切さの意識を広げてくれたように思います。

 

ハーレムのアフリカ系アメリカ人のおじいさんは、施設暮らしで、(配給の食べ物を貰うのは許されないと思い) 遠慮しているのに、いつも配給の TV ディナー*3 を持ってきては食べさせてくれたのだが、彼はベトナム戦争の退役軍人でした。

 

またアメリカ先住民のお祭り、パウワウでは、祭りの入場を先頭で飾るのは、いつも軍服を勇壮にターコイズスターリング・シルバーの装飾で飾った退役軍人のおじいさんたちで、最初は不思議に思ったが、彼らが言うには、選挙権もない時代に戦争で戦ったという話だった。そして彼らの中にはナバホやシャイアンの暗号部隊「コード・トーカー」として沖縄に来た兵士や、また、「バターン死の行進」を歩かされたタオス・プエブロの先住民兵士もいた*4 ということを聞くのである。

 

また学生時代、ユダヤ系の友人からも歴史を学ぶ方法論について学んだ。彼らの律法と歴史の書であのヘブライ聖書を、彼らは焦ることなく学ぶ。特にもっとも重要なトーラー (モーセ五書) は気が遠くなるほどの重量であるが、ユダヤ暦の一月一日から始まって十二月三十一日まで、安息日の土曜日ごとに読む箇所が決まっている。八十八歳であれば、理論的にはトーラを八十八回読んだことになるんだよ、とにやりと笑って教えてくれた。これはすばらしい民族の学びの方法論としての英知だと感心したものです。つまり・・・

 

毎日、毎年、日々の中にある

歴史を、追体験していくことの大切さ。

 

こうした経験がシリーズ沖縄のアイデアの一つとなりました。

 

なぜ歴史を学ぶのか

 

さて、最期に、ウクライナの人気コメディードラマ『国民の僕(しもべ)』 のシーズン 3 の一幕を紹介したいと思います。主人公は、あの有名な政治家になった人です。

 

国民の僕

 

シーズン3で、場面は一転してウクライナの未来へと飛ぶ。2049年。キーウ医大の一般教養の授業の様子。壁には、ソクラテスアリストテレス肖像画も見えます。*5

「この授業で扱うのは、民主主義の歴史だ。」

医学部で学ぶ学生たちは、歴史の授業にはあまり関心がないようです。学生たちは「歴史は医大生にはいらないんじゃないかとおもう?」に、みんなが手をあげます。でも・・・歴史の教授は、学生たちに、歴史を学ぶ意味を伝えます。学生たちは次第に教授の言葉に引き込まれていきます。

「歴史を学ぶことは、現在と未来を比較することを可能にさせ、」

 

「そして私たちが正しい道にいるかどうかを確かめることを可能にさせるのだ」

 

私たちは、

いまどこにいて、

どこに進もうとしているのか、

 

光を投げかけ、それを私たちに示してくれるのは

歴史の知識なのです。

 

もし歴史の知識がなければ、

未来どころか、自分がだれで、自分がどこにいるのか、すら、わからないまま、傲慢な蒙昧さの中に生きることになりますね。

 

 

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もう一つ、シリーズ沖縄戦のアイデアとして影響を受けた大田昌秀さんについてはまた過去に書いた記事を検索して次の機会に記録しておきたいとおもいます。

 

*1:see. 研究社リーダーズプラス "history" [L<Gk. historia inquiry, narrative (histor learned, wise man; wit と同語源)]

*2:あるある、退役軍人。スタンダップコメディアン、ジミーヤンも。

*3:電子レンジで加熱できる、パックに入った食事セット。実際に配られているものはそれほど高栄養ではないものだった。

*4:ニューメキシコ州の周辺地にあるリザベーションでは多くのナバホの若者がコードトーカーとしてリクルートされていった。またニューメキシコ州の州兵「第200歩兵連隊」(200th Infantry Regiment) は、バターン死の行進で多く犠牲となった。タオスのプラザにはバターン死の行進の碑が建立されている。

*5:このシーズン3第一話は、2019年3月にリリースされているが、このシーンの中で、2022年のウクライナ第二破壊といったロシアのウクライナ侵攻を予見するかのような話が語られる箇所がある。危機を乗りこえ、平和になった2049年の場面から始まるという設定である。