沖縄戦資料 ~ 米軍に鹵獲された沖縄警察文書 「米軍に協力する者は殺せ」

 

以下にある二つの文書について。米軍が鹵獲し情報班が翻訳したもの。

(出典) Island Command, Military Government Headquarters, Okinawa, “Intelligence Report," Military Government Circular, No.87, 29 June 1945. (沖縄島司令部軍政司令部 が作成した情報レポート)

(訳注) 第3水陸両用部隊の情報レポート (1945年6月21日付)に掲載されていた日本文書を転載したもの。 この二点の文書の日付ならびに没収した日は不明。 両者とも沖縄県 警察部が作成した文書と見られる。 前者については、 第 10 軍司令部 G-2 が作成した Translation No.172, 1945.6.19 に記載された内容の抜粋が、 南西太平洋方面軍 G-2, Daily Summary of Enemy Intelligence, No.1187、1945.7.5、に掲載され、そこからの抜粋がイギリス国立公文書館にも保存されている。

 

林博史『米軍1次資料に見る沖縄戦』Part 2

 

警察が、民衆を監視し、戦争に反対したり政府や軍に批判的な言動を取り締まり、民衆を戦争に動員していくうえで大きな役割を果たしたことはよく知られている。しかし沖縄戦において警察がいかなる役割を果たしたのか、資料がほとんど残っていないこともあってあまりよくわかっていない。警察関係者の証言では、日本軍のひどさばかりが強調され、警察も被害者であるかのような印象を受ける。

 

ここで紹介する文書は、沖縄県警察の文書と見られる。この二つの文書はセットで米軍によって英訳されていた。後者の「戦闘活動要綱」は1945年2月下旬に編成された県警察警備隊のものである。警察が平時業務を停止し、戦時態勢に編成替えされて生まれたのが、警察警備隊(隊長は県警察部長)である。生存者の証言で組織編成の概略と、おおまかな目的はわかっていたが、実際の具体的な活動についてはよくわからなかった。しかしこの要綱によって、くわしいことがはっきりした。住民を組織し、士気高揚をはかるだけでなく、警察官自らが軍事訓練をおこない、さらに住民に軍事訓練を施し、米兵との戦闘方法、夜襲の方法などの訓練を警察が指導するという任務が明記されている。また警察警備隊のなかに特別行動隊を設置し、特別行動隊は、内密に行動し、民間人の行動を警戒、情報収集をはかる任務が与えられている。つまり住民を秘密裏にスパイする役割である。

 

 この要綱の延長線上に、前者の警察への指示があると見られる。警察官あるいは民間人のなかから密偵を敵占領地に送り込んで、日本軍の遊撃戦に協力するだけでなく、米軍に保護された住民の動向を監視し、米軍に協力する者を殺すように指示されている。警察官も民間人も国家のために命を捧げることを要求し、軍官民一体化を具体的に示している。文書の内容から米軍上陸後の1945年4月ないし5月ごろ、国頭地区の警察に指示されたものと推測される。国頭地区では米軍に保護された住民や指導者を日本軍が虐殺する事件が起きている。警察が実際にどこまでこの命令を実行したのかはわからないが、実質的には、この指示内容が実行されていたと言えるだろう。住民たちは、日本軍だけでなく警察も含む行政機関、それに協力する民間人など何重にも監視され、国家のために「命を捧げる義務」を強いられていった。この二つの文書は、沖縄戦の直前ならびに沖縄戦の最中における警察の役割を明らかにする貴重な資料である。

 

沖縄警察文書 「米軍に協力する者は殺せ」   

(タイトルなし) 沖縄県警察部が作成した文書と見られる。日付不明

 

 1 軍に入っていない民間人と同様に警察官も、緊急事態において自らの命を国家に捧げることは臣民の国家に対する偉大な義務であることを認識しなければならない。この訓示は完全に履行されなければならない。

 

2 警察官はいかなることがあっても敵に捕らわれてはならない。

 

3 遊撃戦への協力 

(イ)変装した警察官あるいは民間人から選抜した密偵は、敵に占領された地域に潜入し、敵の状況を偵察すべし。而して、陸軍部隊との連絡を確保したのち、遊撃戦が有益かつ効果的に遂行できるように努力すべし。

(ロ)警察官ならびに民間人の中から適任者を選抜し、陸軍部隊とともに遊撃戦に活用すべし。

(ハ)警察官は軍に協力し、最後の一人まで戦闘に参加すべし。また国や県市町村の官吏ならびに民間人は日本人としてこの精神を示し、栄誉のために戦うべし。

 

4 現在敵の掌中にあるわが国民を利用して、かれらとの接触体制を確保し、わが遊撃隊と密かに連絡すべし。それらの者たちは敵幹部を暗殺し、敵兵舎を破壊し、さらに敵陣営を混乱に落としいれよ。この者たちを上述の目的のために徹底して訓練した後、敵地域へ深く潜入させるべし。

 

5 敵占領地域にいる者たちについて秘密裏に捜査をおこなうべし。もし敵への協力者を発見すれば、殺すか、あるいは然るべく処置すべし。

※ ブログ注: 敵占領地域にいる住民とは、つまり北部全域や米軍占領地にある住民であり、また特には米軍が管理する民間人収容所にいる住民を指す。

 

6 特に敵占領地域にいる民間人にとっては、敵の宣伝に打ち勝つ努力がなされなければならない。

 

7 各守備隊長は、村内の官吏に対してと同様、部下に対しても厳格な命令を発すべし。そして危険に陥ったときには、任務を断固として遂行すべし。日本人の特徴を体現するということは、自らの命の危険を顧みず、敵と戦うことであるという旨の徹底した指示がなされなければならない。

 

8 皇土を防衛するために、兵士だけが命を捧げる義務があるのではなく、すべての日本人は命をかけて皇土を防衛すべし。この精神を持ってはじめて、われわれは高慢な米軍兵士を一人残らず殺すことができるし、皇土を防衛することができるのである。

 

9 国頭から島尻へ小船で進入することが不可能なので、情勢報告は状況が許されるときにせよ。

 

「戦闘活動要綱」は1945年2月下旬に編成された県警察警備隊に関するもの。警察が平時業務を停止、戦時態勢に編成替えされて生まれたのが、警察警備隊。上の資料と同様に、沖縄戦中に米軍が鹵獲し英語訳して記録したものを日本語訳してある。原本の所在は不明。おそらく翻訳後に破棄されたものと思われる。

県警察警備隊「戦闘活動要綱」

 要旨

 各市町村の警察管轄区域は警部補あるいは巡査部長が長となるべし。その長は、警備隊を配置し、町村内での戦闘の結果を報告せよ。このように長の任務は、わが部隊と戦っている敵部隊に対する行動の確固とした指令を出すことである。また長は戦闘地域での情報連絡の任務を与えられる。

一 警察部の制度と組織

(イ)警察警備隊本部  警察部長ならびに若干の職員

(ロ)各町村の分遣隊  警部補あるいは巡査部長と五人で分遣隊を編成する。

(ハ)その他の隊    隊長と二人から五人で一班を編成する。数班を編成する。

(注)補強は必要に応じて、警察本部から供給する。

二 活動の目的

 戦場生活ならびにその目的の実際の状況を把握すること、同時に情報の確固とした速やかな連絡を先んじておこなうこと、住民の戦闘意欲を一層高めること。このため敵に対する活動を全力をあげて実施すべし。

(イ)活動を遂行する具体的な方法

(1)ガマで生活をしている家族たちの組織を確立すること。

(2)敵と戦うための組織的な訓練を確立すること。

(3)竹やりや鎌などの、武器の装備、使用、検査

(ロ)陸軍部隊にならった訓練 まず何よりもすべての警察官が訓練すべし。ついで民間人も訓練すべし。

(1)攻撃してくる敵兵に対処する方法

(2)パラシュートで降下してきた敵兵を急襲、対処する方法

(3)敵の野営地への夜襲の方法

(ハ)警報   敵の航空機や戦車、地上兵力による奇襲攻撃のような緊急事態の場合、鐘や笛のようなものの音で警報を出すべし。

 

三(イ)情報網  

町村の各隊長は、警察警備隊長に毎日あるいは隔日で報告すべし。

(ロ)警察警備隊の各隊長は、管轄区内の状況を報告せよ。またすべての情報報告を収集せよ。情報が入り次第、警察本部に報告せよ。

 (注)各警備隊長は、それぞれの隊員ごとに地区を割り当て、正確な情報を収集せよ。警備隊長は管轄区の責任者あるいは適当な○○(*判読不能)を任命し密接な連絡を維持せよ。

(ハ) interviewing(*この項、意味不明)

 インタビューの方法は次の通りである。戦場生活をよりよくするために、個々の鐘状のたこつぼは、重要な交通地点に直ちに建設せよ。

 (注)避難壕は、地形の必要に応じて配置せよ。一人をこの建設の担当者として任命せよ。

(ニ)特別行動隊の活動 

  (*直訳すると「特別活性化部隊」だが、『沖縄県警察史』を参照して訳した)

 特別行動隊は、それぞれの分遣隊相互の連絡を維持し、活動を容易にしながら、各町村のそれぞれの地区を組織的にパトロールせよ。同時に特に防諜に従事し、民間人の行動に警戒せよ。さまざまな防衛情報を収集せよ。

 特別行動隊は、常に内密に活動せよ。警察部長は、自身で活動の概要と連絡方法を計画し、それを最大限活用するように努めなければならない。

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■